大阪障害児教育運動連絡会 文部科学省4.27通知に対する見解

障教連文科省427通知に対する見解

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障害のある子どもをふくめた全ての子どもの発達が保障される教育の実現を求めます

「特解別支援学級及び通級による指導の適切な運用について」(文部科学省2022年4月27日付通知)に対する見解

 大阪の障害児教育にかかわる6団体でつくる「大阪障害児教育運動連絡会」は、文部科学省が4月27日に発出した通知「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について」に関する見解を9月22日にとりまとめて公表しました。

 ぜひ多くの皆さんにお読みいただき、ご意見などをお寄せいただきますようお願いいたします。

<大阪障害児教育運動連絡会 構成団体>
大阪府立障害児学校教職員組合
大阪教職員組合 障害児教育部
大阪障害児・者を守る会
大阪の障害児教育をよくする会
全国障害者問題研究会 大阪支部
障害者(児)を守る全大阪連絡協議会

連絡先/〒543-0021 大阪市天王寺区東高津町7-11 大阪府教育会館704 号
TEL (06)6765-8904 FAX (06)6765-8905
E-mail fushoukyou_1◎@mtb.biglobe.ne.jp (◎は@に変えてください)

通知に関する私たちの見解

 本年4月27日、文科省から「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)」(以下通知と表記)が都道府県教委、指定都市教委等に対し発出され、同内容が、大阪府教育庁から市町村教委に5月10日付で周知されました。これに伴い、各地で大混乱が起きています。

先生が減らされたり、居場所がなくなったりすると困ります

 通知では、特別支援学級に在籍する子どもの学習の場について、以下のことが示されています。

・令和3年度に一部の自治体を対象に実施した調査(※引用注 大阪府、大阪市が含まれる)において、特別支援学級に在籍する児童生徒が、大半の時間を交流及び共同学習として通常の学級で学び、特別支援学級において…指導を十分に受けていない事例があること。

・障害のある児童生徒が、必要な指導体制を整えないまま、交流及び共同学習として通常の学級で指導を受けることが継続するような状況は、実質的には、通常の学級に在籍して通級による指導を受ける状況と変わらず、不適切であること。

・特別支援学級に在籍している児童生徒が、大半の時間を交流及び共同学習として通常の学級で学んでいる場合には、学びの場の変更を検討するべきであること。…原則として週の半分以上を目安として特別支援学級において…授業を行うこと。

 大阪ではこれまで、「共に学び、共に育つ」教育を掲げ、障害のある子どもも通常学級で学ぶことを「原学級保障」として推し進められてきました。対してこの通知は、通常学級における交流及び共同教育への過度な傾倒を問題であると取り上げ、実質的に、大阪の方針の転換を迫る内容となっています。

 この通知を受けて大阪市・堺市を含む府内の各教育委員会では、各学校や保護者に対して、特別支援学級在籍の変更や、学習内容の早急な変更を求める動きが出てきています。ある自治体では、特別支援学級での授業時数を示しながら次年度の在籍について確認する文書が、別の自治体では「新しい支援教育の方針」を示し、特別支援学級での学習の「同意」を求める文書が、保護者に配布されました。

特別支援学級「原則として週の授業時数の半分以上」の「目安」の明示では、一人ひとりの教育的ニーズに応じられない

 私たち大阪障害児教育運動連絡会とその構成団体は、これまで一貫して障害のある子どもたちの発達を保障する教育の実現のために、特別支援学校・特別支援学級の充実、通級指導教室の全校設置をはじめ、通常学級をふくめた教育条件の改善を目指し取り組みを進めてきました。その中で、「共に学び、共に育つ」教育のもと、障害のある子どもが十分な支援を受けられないまま通常学級での学習を押しつけられることがあってはならないと指摘し、特別支援学校・特別支援学級での発達に応じた教育の充実を求めてきました。今回の通知は一見すると、大阪の「共に学び、共に育つ」教育の問題点を是正し、特別支援学級での子どもたちの実態にあわせた学習を促すようにも見えます。しかし実際は、この通知では障害児教育の充実にはつながらず、むしろ後退させるものと考えます。

 学校からの突然の連絡や報道等の情報に触れ、各地で不安の声があがっています。ある保護者は「うちの子の場合は、特別支援学級に在籍できないのか」「通級指導教室といっても、我が子が通う学校には設置されていない」と、先行きの不透明さへの不安を露わにします。

 通知は、冒頭で「一人一人の教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できるよう、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要です」と示しておきながら、指導を可能とする条件整備が、どこにも示されていません。そればかりかむしろ「最も的確に応える指導」という文言には、支援の幅を広げるものではなく、個に応じるという名目で支援を効率化・限定化するようなきらいがあります。

 一人ひとりの教育的ニーズは多様であり、また環境や時々の状況により変化するものです。さらに、それぞれの子どもや学校・地域の指導・支援の経緯がある中で、通知のような形で基準を示すことは、子どもや保護者の不安をあおり、障害のある子どもたちの成長・発達の場を奪うものとなりかねません。

通知による、障害児のための教育保障・合理的配慮にかかる経費削減を懸念

 通知に触れ、学校生活にあたり、安全の見守りや集団生活への不安の解消を期待して特別支援学級に在籍した子どもや保護者から不安の声があがっています。特別支援学級に在籍し通常の学級での学習をがんばっている発達障害の子の保護者からは、「しんどくなった時にクールダウンできたり見守ってもらったりするためにと思い特別支援学級に在籍しました。確かに、うちの子は大部分が通常学級でもできるかもしれないけれど、先生が減るのは困るし、話が違うと思います」と、支援体制の後退を心配します。また肢体不自由児の保護者からは「自分で歩行することもできるため、安全な移動の見守り支援など合理的配慮の保障を期待して特別支援学級に在籍した。在籍でなくなると、これらの支援は保障されるのでしょうか」と指摘します。

 私たちは、通知の本質は障害児のための教育の充実、合理的配慮のための環境整備を図るものではないと考えます。通知の本当のねらいは、特別支援学級に在籍する子どもの数と学級数を減らし、障害への合理的配慮にかかる経費をおさえることにあると考えます。

保護者への十分な説明が行われないことへの強い憤り

 通知を受け、保護者に対する説明が十分に行われないまま、学びの場の「変更」が進められている状況が広がっています。中には教育委員会としての方針が定まらず、学校によって説明が異なる地域もあり、不信感も広がっています。このような中で、「学びの場」の変更を意図すると思われる確認や同意の取り付けが進められることに、怒りの声が上がっています。

 そもそも文科省は、これまで特別支援学級在籍の子どもたちの通常学級での「交流及び共同学習」を推奨してきました。05年の『特別支援教育を推進するための制度の在り方について』(中教審答申)や、昨年度の『新しい特別支援教育の在り方に関する有識者会議』、『障害のある子供の教育支援の手引』にも示されており、今回の通知はこれらとの矛盾が見られます。これが、混乱をより一層強める要因となっています。

 教育の場の選択は、子どもやその保護者の納得と同意が原則です。しかし現状は、この原則がないがしろにされています。子どもや保護者が納得できるような十分な説明がないまま判断を迫られている状況に、私たちは強い憤りを感じています。

不十分な特別支援教育の条件の中で、大阪の特別支援学級が担ってきたもの

学校そのものが、子どもたちにとって過ごしやすい場所になっていない

 大阪府内の特別支援学級に在籍する子どもは、特別支援教育が始まった07年度と比べて21年度は3.53倍となりました。これは、全国にも増して高い水準です。通知を出すにあたり、文科省は「在籍の割合が高い地域」への調査を根拠にしましたが、大阪をはじめ全国の在籍数の増加の背景には、特別支援学級の「適切な運用」や学びの場の「適切な判断」の問題にとどまらない、教育そのもののあり方の問題が含まれていると、私たちは考えています。

 クールダウンの場として特別支援学級を利用していた子どもは、「通常学級は、生徒がいっぱいいて先生は1人しかいないのに対応してもらえるわけないやん。先生も忙しいし」と学校の状況を語ります。先生が子どもたちと丁寧に関わるには、1学級の人数が多すぎること、日々の業務に多忙なことを子どもが察して遠慮するような状況です。またある保護者は、「通常学級では子どもたちがテストと競争によるストレスで、荒れや不登校、いじめなどが心配」と語り、学校そのものが子どもたちにとって、過ごしやすい場所になっていないという現状を憂います。

 今、学校は「全国学力状況調査」や大阪府が進める「チャレンジテスト」「すくすくウォッチ」などの競争と管理の強化により、子どもたちにとって生きづらい場所となっていっています。特別支援学級や特別支援学校に在籍する子どもの増加の背景にはこうした通常教育が抱える問題もあると考えます。

子どもや保護者に寄り添い励ます役割を担ってきた特別支援学級

 生きづらい場所となっている学校において、特別支援学級とその担任の先生は、子どもや保護者の不安に寄り添い、子どもの成長・発達への希望を指し示し、子どもたちが真に安心して学校生活を送るために大きな役割を果たしてきました。特に、大阪の小中学校では本人・保護者の意向を踏まえ可能な活動については通常の学級で行い、小集団が好ましい活動や個に応じた学習については個別に特別支援学級で行うという方式も行われてきました。ある保護者は、「特別支援学級での授業時数には表れない、生活面・精神面で下支えしてきた特別支援学級」の役割を指摘します。大阪の特別支援学級は、全国にも増して、子どもの駆け込み寺として機能し、通常学級と連携しながら保護者の不安感に寄り添い励ましてきました。自己選択・自己責任の考えが広がる中で、生きづらさをかかえた我が子を守りたい一心で特別支援学級への入級を希望する保護者の切実な思いを支えることも、特別支援学級の大事な役割のひとつとなっています。

 他方で、大阪府内では、「共生・共育」が掲げられる中で、本人や保護者が希望するにもかかわらず、特別支援学級の授業を「算数」「国語」の教科のみに限定したり、子どもの障害や発達状況を軽視して理解が困難な通常の学級の授業に参加させたりといった、生き生きとした主体的な学びが奪われてきた実態があります。中にはストレスのために「自傷」「他傷」や行き渋り・不登校などの二次障害を引き起こし、居場所を求めて支援学校に転校するというケースもあります。私たちはこのような行き過ぎた「共に学び・共に育つ」教育を是正し、どの子も安心して学び、発達が保障される教育に変えていくことも課題だと考えています。

 通知が示す「適切な運用」からは、大阪の特別支援学級が担ってきた、子どもや保護者をささえる役割が見えてきません。大阪の特別支援学級が担ってきた役割を正当に評価し、支援・指導を限定してきたこれまでの方針を是正することが大切です。そのためにも、一人ひとりの教育的ニーズを踏まえたカリキュラムと支援体制の充実が不可欠です。通常学級や特別支援学級、通級指導教室が子どもの学びの場としてふさわしい環境として整備され、特別支援学級での学習時間で「適切」かどうかをはかるのではなく、豊かな環境の下で学校全体が連携して支援を展開できるようにすることこそ必要と考えます。

一人ひとりの教育的ニーズに応え得る教育条件整備こそ急務

 通知では、学びの場の変更にあたっての支援の方策として「通級指導教室」が示されています。しかし、実際は子どものニーズに応じられるような設置状況ではありません。府内にある小・中学校1434校に対して通級指導教室は約3割の456教室しかありません。各地の設置状況にもばらつきがあり、中には20校に1教室しか設置されていない地域もあります。また、依然として保護者の送り迎えを必要とする他校通級が中心で、1教室40人を超える子どもが利用する教室もある等、支援を受けるには大きな制約があります。今後、13人定員へと整備されていく見通しですが、8人定員の特別支援学級の支援体制とは大きな格差があります。これでは、学ぶ権利の後退にもなりかねません。

 保護者の相談や各方面との連携を担う、特別支援コーディネーターも専任配置ではありません。特別支援学級や通常学級の担任をしながらでは、「話を聞いてもらいたい。相談したい」という保護者の思いにいつでも応じられる状況ではありません。通常学級に在籍し望めば安心して利用できる自校通級の通級指導教室の全校設置や定数の改善、特別支援コーディネーターの専任化を急ぐ必要があります。

 子どもの発達を保障し、保護者を支える役割を担っている特別支援学級においても、決して十分な条件ではありません。特別支援学級在籍数が3.53倍になる一方で、学級設置は2.56倍に留められています(07年度比)。特別支援学級定数は30年前から改善されず8人のままで、重複障害のある子どもに対しても加配等の措置もありません。また、中には1年から6年まで全ての学年の子どもが学ぶ学級もあります。特別支援学級の縮減が懸念されるような通知ではなく、在籍児童・生徒数の増加に実質的に見合った特別支援学級の増設置と、学級定数を6人に引き下げるなど特別支援学級の教育条件改善をすすめる事こそが必要です。

私たちの願い

 文科省通知は、教育そのものが抱える問題、在籍が増える理由の本質に触れられていません。そして、不十分な支援体制の中で、大阪の特別支援学級担任が担ってきた重要な役割についても触れることなく、「特別支援学級」を拠り所にしてきた保護者の思いを汲む内容は、一切示されていません。それにもかかわらず、通知が特別支援学級での授業時数を根拠に「学びの場の変更」を求めることは極めて不適切です。保護者の願いや子どもの状況、地域の実情を踏まえずに、紋切り型に切り捨てるようなことは、とうてい認められません。私たちは、障害のある子どもたちの発達を保障する教育を求めます。そのためにも、

・地域に密着した小規模・適正な特別支援学校の新設
・特別支援学級の定数改善(当面6人に)と増設置
・通級指導教室の全校設置と定数改善、指導・支援体制の充実
・特別支援コーディネーターの専任配置
・中学校も含めた義務教育全学年35人学級の実現など通常学級の定数改善
・通常学級での合理的配慮を可能とする人的・物的・技術的な諸条件の整備
・看護師・介助員・相談員等、障害のある子どもの支援を充実するための人的配置

など、教育条件の改善を強く求めます。そしてその改善が、保護者や子どもの思いを十分に聞き取って進められることを原則とするよう求めます。

 このほど国連障害者権利委員会は、「総括所見(22年9月9日)」を取りまとめて日本政府に施策の改善を求めました。障害児教育に関しては、今回の通知を撤回するよう名指しで勧告するとともに、インクルーシブ教育の推進を強く求めています。

 今求められているのは、管理と競争によって子どもたちを「排除する」教育を改め、少人数学級の実現や障害のある子ども、不登校・被虐待・非行・貧困問題、外国籍ルーツの子どもや帰国子女など様々な困難や「特別な教育的ニーズ」を抱える子どもたちの尊厳と多様性を「包み込む」=「排除しない」真のインクルーシブ教育の実現です。単に学ぶ場を一緒にしたことでインクルーシブが実現したとは到底言えません。現在の、多くの子どもたちが居場所を失い、学ぶ意欲をそがれ、生き生きと活動できない競争・管理主義教育をきっぱりと是正してこそ、真のインクルーシブ教育は実現できます。それは私たちが求める教育諸条件の改善を第一歩として、多くの教育関係者・市民の共同の力で実を結んでいくものであると考えます。

 私たちは、競争・管理に傾倒する教育のあり方の是正をもとめ、貧しい教育条件のまま、「通常学級か特別支援学級か」「地域の学校か支援学校か」という二者択一を迫るのではなく、一人ひとりの障害や発達の状態、教育的ニーズに応じる事が可能な基礎的な条件整備を進めることを求めます。

 大阪の障害児教育における教育条件整備と、子どもの実態に応じた障害児教育の充実の上で、障害のある子どもをふくめた全ての子どもの発達が保障される教育を実現するために、通知の即時撤回を求めます。