たとえば、交通事故を起こしたために、退職後の生活を支える年金の[部がもらえなくなる-そんなおそれがあることをご存じでしょうか。国家・地方公務員や私立学校教職員などが加入する共済年金の「支給制限措置」制度によるものです。
今回は、全教共済専務理事の今谷賢二さんに聞きました。
全教共済専務理事 今谷賢二さん
-教職員が懲戒免職になったり、裁判で有罪になったりすると、退職共済年金が支給されないおそれがあると聞きました。
共済年金制度は、社会保障としての公的年金制度ですが、民間の厚生年金にはない公務員や私立学校の教職員などの独自の制度である「職域部分」があります。政府はこの「職域部分」については、「服務規律維持」の観点から、「支給制限措置」を行うことができるように法で定めています。
-公立学校の教職員だけが対象になるということでしょうか。
そういうわけではありません。たとえば、私学共済組合員である私立学校の教職員も、細かい点で異なる部分はあるものの、ほぼ同様の支給制限を受けることになっています。
-どのような場合に、「職域部分」が支給されなくなるのですか?
教職員に「支給制限措置」が適用される場合には、主なものとして、
(1) 共済組合の組合員か組合員であった者(以下教職員・教職員であった者)が、禁錮以上の刑に処せられた場合
(2) 共済組合の組合員(以下教職員)が懲戒免職処分(私立学校の場合は同等の事由で解雇)となった場合
などがあります。
(1)の場合の「禁錮以上の刑」には、執行猶予の場合も含まれます。また、実際に刑を執行されている場合は支給停止の金額や期間が変わります。
-支給停止額と期間の考え方はどのようなものになっていますか?
(1) 教職員・教職員であった者が禁錮以上の刑に処せられた場合、「職域部分」
の百分の五十が60か月にわたって支給停止になります。遺族共済年金の受給権者の場合も同様です。これは、執行猶予となっても同じです(ただし、実際に刑を執行されずに執行猶予期間が満了した場合は、支給停止となった部分は、遡って支給されます)。
(2) 退職共済年金や障害共済年金の受給権者が、禁錮以上の刑に処せられて執行されている場合は、
A:刑の執行が60か月以上の場合には、刑の執行期間中、「職域部分」の全額が支給停止になります。
B:刑の執行が60か月未満の場合は、刑の執行期間中は「職域部分」の全額が支給停止になり、刑の執行が終わったあとは、60か月から刑の執行期間を除いた期間、「職域部分」の百分の五十が支給停止になります。
(3) 教職員が懲戒免職となった場合は、「職域部分」×(懲戒免職に引き続く共済組合員期間/年金算定の基礎になっている共済組合員期間)の百分の五十が60か月にわたって支給停止になります。
このほかにも、停職処分を受けた場合などにも、支給停止になります。
-イメージがわきにくいですが、具体的にはどのくらいの金額が支給されなくなりますか?
表の試算によれば、40年間共済年金に加入していた人の「職域部分」の支給月額は、約2万円です。
この金額で見ると、たとえば、禁錮3年の実刑となった場合、刑の執行を受けている36か月間で約72万円、その後、60か月に達するまでの24か月間は約24万円、総額で約96万円が支給停止となります。60か月間に支払われるはずの年金の総額は、約一千百万円ですから、約1割の年金が支給されないことになります。
-結構大きな額になるのですね。
定年退職を間近に控えた教職員が、禁錮刑以上に処せられたり、懲戒免職処分となったりした場合は、退職手当にも影響が及びますから、生活設計に大きな支障が生じることは十分に予測できることです。
また、退職した教職員であっても、退職後の行為によって年金が減るわけですから、経済的に大きな打撃となることはいうまでもありません。
-しかし、通常は、禁錮刑以上の罪を犯すようなことはあまりないようにも思えますが。
過失が罪に問われる場合もあるので、注意しなければなりません。特に交通事故の場合などがそうです。
たとえば、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」場合に問われる過失運転致死傷罪は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金となっています。
-そういえば、教員免許状も禁錮刑以上になると、失効になりますよね。
そうです。現職の教職員が交通事故で相手を死亡させたり、重傷を負わせるような事故を起こした場合、懲戒免職や禁錮刑以上となると、教員免許状が失効・取上げとなります。執行猶予であっても同様です。
-決して他人ごとではないですね。
過失による交通事故は、注意を払い、安全運転を心がけることで、遭遇する危険性を減らすことはできますが、まったく起こさないようにすることは残念ながらむずかしいことです。そして、いったん起こしてしまった場合、軽い事故で済むか、大きな事故になるかは、紙一重です。
通常の自動車保険では、刑事上の処分まで考慮した対応はされません。
その点、全教が民間損保と提携して実施している全教自動車保険は、「被害者救済・加入者保護」の考えのもと、刑事上の処分まで見越した対応を行っています。万一、重大事故を起こしてしまった場合、現職の教職員のみなさんの身分を守ることに全力をあげていますが、このことは退職教職員の生活を守る上でもきわめて重要なとりくみとして求められているといえます。
(全教共済ニュース 2015 夏号)
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