「神武天皇から126代目の天皇即位」の祝意を子どもに押しつける校長講話を批判する

 

「戦争美化の教科書を子どもたちにわたさない大阪市民の会」の校長講話批判を紹介します。

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「神武天皇から126代目の天皇即位」の祝意を子どもに押しつける校長講話を批判する

2019年7月16日
戦争美化の教科書を子どもたちにわたさない大阪市民の会
 共同代表 岩下美佐子

1.大阪市立泉尾北小学校は5月8日、「天皇陛下が替わられた」『元号が「令和」に替わった』記念の全校朝礼を行いました。(泉尾北小学校ホームページ校長日記より)

 小田村直昌校長は全校朝礼の様子を次のようにホームページに記載しています。

 「私からは天皇陛下にお代わりになった話と126代目であること、元号も日本古来から続いているお話をしました。」「次にシンガーソングライターの『山口采希』さんに色々な歌を披露して頂きました。とてもいいお話をして下さいました。…・神武天皇と仁徳天皇の『かまどの煙』のお話と歌…とても素晴らしいゲストでした!」

 また、山口采希氏はブログで、「唱歌『神武天皇』・唱歌『仁徳天皇』のお話と歌を歌わせて頂きました(〃ω〃)唱歌『仁徳天皇』は初めて歌った曲ですが、歌う前に『民のかまど』のお話をしたんですが、改めて国民と天皇の絆の深さを感じるお話に私も話しながら胸が熱くなりました。」と述べています。

2.大阪市教育委員会の聞き取りに小田村校長は「文部科学省の通知にのっとって実施した」と説明したと毎日新聞が報じましたが、校長の「朝礼の話」は文部科学省通知を逸脱しています。

 文部科学省「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に際しての学校における児童生徒への指導について(通知)」は、「御即位に際し、本休日法の趣旨を踏まえ、国民こぞって祝意を表する意義について、児童生徒に理解させるようにすることが適当と思われますので、あわせてよろしく御配慮願います。」としています。

 言うまでもなく、現憲法に基づく天皇制であり、「天皇の即位の日及び即位礼正殿の儀の行われる日を休日とする法律」(平成30年法律第99号)に基づく祝意です。

 校長が児童に「126代目である」と話したことは重大です。神武天皇から数えて126代目であることを子どもたちに押しつけています。神武天皇は「日本書紀・古事記で初代の天皇とされる伝説上の人物」(『岩波 日本史辞典』)です。
1940年に行われた紀元2600年式典は、1940年が神武天皇即位から2600年目に当たるとされ、11月10日に政府主催の記念式典が宮城前広場で開催されました。この日から14日まで全国で奉祝会などの祝賀行事が行われ、天皇への忠誠と国威発揚・戦争完遂の決意があらためて強調されました。なお、神武天皇の即位は、紀元前660年元日としています。

 大日本帝国憲法下の天皇制、神話の「天皇」の区別もなく、「126代」と児童に教えることは、歴史の偽造と言わざるを得ません。

 大阪市教育委員会は、「神話など不確かな内容を取り扱う際は、児童が多角的に考えられるよう考慮すべきだ」と校長に伝えたと朝日新聞が報じていますが、市教委の指摘は不十分です。

3.神武天皇に関わっては、大阪市立中学校では、育鵬社の歴史教科書が使用されていますが、その51ページには「こうしてカムヤマトイワレヒコノミコトは畝傍山のふもとの橿原で即位し、初代神武天皇となるという物語です。なお、2月11日の『建国記念の日』は、神武天皇が即位したとされる日を記念したものです。」と記述しています。

 「国民の祝日に関する法律」は、建国記念の日を「建国をしのび、国を愛する心を養う。」とし、日付は他の祝日とは違い、「政令で定める日」となっています。「神武天皇が即位した日」とすることは許されないからです。育鵬社教科書は事実でないことを書いています。神武天皇の即位(紀元前660年)そのものが虚構であり、戦前の「紀元節」復活論者は2月11日としたかったわけですが、法律に記すことが出来なかったのです。私たち「市民の会」は育鵬社教科書を批判してきましたが、その問題点を改めて指摘します。

4.全校朝礼では、「行くぞ!日の丸!」が歌われました。

 「うつむいた日は過ぎた 時が来た まっしぐら 行くぞ!行くぞ!日の丸が行くぞ! ああ勇ましく 日の丸が行くぞ」。

 同校に2人の子を通わせる母親は、「子どもたちが家で、〝行くぞ行くぞ日の丸が行くぞ〟と歌っているのを聞いて、びっくりしました。覚えやすい歌ですぐに覚えたようで。『戦争の歌?』と聞くと、オリンピックの応援歌と聞いたそうです。でもまるで戦前に戻ったみたいな歌詞で、怖いなあと思いました」、「私は国旗や国歌には抵抗ありません。だけど、今回のように戦時中かと思うようなものを、子どもたちに教えるのはやめてほしい」と話したと大阪民主新報7月14日付が報じました。

5.ジャーナリストの青木理さんは、「政治的中立が求められる教育の現場で、しかも全校児童が参加せざるを得ない朝礼で、神武天皇など事実に基づかない神話を基に特定の価値観を押し付けていると言える。信教や思想信条の尊重といった観点から憲法違反だし、教育の原則にも反する。外国籍の子どもらへの配慮も全くない。一部の右翼にみられる戦後民主主義に対する肥大化した憎悪が、稚拙かつ乱暴な方法で教育現場に表れているのだろう。校長は趣旨をきちんと説明すべきだ。」と指摘しています(大阪日日新聞7月4日付)。

6.戦争美化の教科書を子どもたちにわたさない大阪市民の会は、戦争を美化し、憲法改悪をめざす育鵬社の中学校歴史・公民教科書の内容を広く市民に知らせ、こんな危険な教科書を子どもたちにわたしてはならないとの合意を広げ、保護者・市民と共同して、子どもと教育を守る取り組みを進めて来ました。

 「神武天皇から126代目の天皇即位」の祝意を子どもに押しつける校長講話を批判するとともに、保護者に不安を広げた校長講話に対する適切な対応を求めます。校長講話の問題点をただし、保護者、市民に説明することを求めます。

以上