小3~中3テスト漬け 子どもも教員も「数値」管理(総合教育会議)

「大阪市教」 学テ・人事評価反映 2018年9月17日

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小3~中3テスト漬け 子どもも教員も「数値」管理

校長は全国学力テストで評価
教員はチャレンジテスト(中)、学力経年調査(小)で評価
新人事評価制度を今年度内に策定-2020年度評価結果を2021年度反映

大阪市総合教育会議(2018年9月14日)

 大阪市は9月14日、「平成30年度第2回大阪市総合教育会議」を開きました。総合教育会議は「市長と教育委員会が、相互の連携を緊密にしながら、 地域の実情に応じた教育行政を推進するため」(設置要綱)の協議、事務の調整を行うものですが、会議の実際は、吉村洋文市長の「全国学力テストの目標の達成・未達成を業績評価などに反映」させる意向、大森不二雄大阪市特別顧問の「新たな人事評価制度と学力向上データの利用について(提案)」(以下「大森提案」)への同意を教育委員に迫る異常なものでした。

評価の客観的な指標が作れるのか
地方公務員法違反の疑義

 総合教育会議で森末尚孝教育委員(弁護士)は「客観的な評価制度が必要であることと、学力向上が教員、教育現場全体の非常に大きな大事な仕事であることは共感。ただ法律家として若干の悩みがあり」とし、地方公務員法にも触れながら、「評価の客観的な指標が作れれば、あとは流れていくし賛成。指標が本当に作れるのか、すごく議論しデータを取りながら因果関係も含めてきちっと押さえないと、あとすべて砂上の楼閣になる可能性があるので、ビッグデータの活用も含めて慎重に慎重に基礎を固めて、その上に次の評価をする。指標をきっちりしないと地方公務員法違反じゃないかという疑義も生じてくるので、きちっと固めて具体的な項目をつめていく作業が必要」と発言しました。これに対して、大森特別顧問は、「森末委員から指摘の法的な(問題)、これで法的な問題があるという弁護士がいるなら、ここに連れてきて議論したいと思っている。」(ざわめきが起こる)「まじめにそう思っています。地公法のどこにそんなことが書いてあるんだ。政策判断に立ち入りすぎですよ、それは。」と声を荒げました。

パフォーマンスペイ
経済学ではコンセンサスがない

 市長は「提案してからいろんなメディアで批判されたが、アメリカや諸外国の制度ではすでに教員の評価にインセンティブはマイナス効果が立証済み、確定している、今更やるのは時代錯誤だと言われている、それは事実なのか、研究の経過を教えていただきたい」と、「学校・教員に対する金銭的なインセンティブが児童・生徒の学力に与える影響-経済学の研究成果から-」(資料5)を提出した慶応大学の中室牧子准教授に問いました。

 中室准教授は、「一言で申し上げますと、パフォーマンスペイが子どもの学力にどういう影響を与えるかということについて、現在経済学ではコンセンサスがないという状況だろうと思います。」と答えました。

金銭的インセンティブは、モチベションを上げないケースもある

  また、中室准教授は、「経済学の分野でパフォーマンスペイについて、いくつかの有力な批判があって、一つは学力テストの対策をやりすぎるがあまり、学力の低い子を欠席させたり、実際アメリカの研究で明らかになっていますが、教員がテストの結果を書き換えたりしているという事案があり、そういったことが起こらないように十分な注意を払う必要があるという点と、もう一つは実は金銭的インセンティブは、必ずしも、いま目の前にある仕事を一生懸命やりたいという内的なモチベーションを上げないというケースもあることが指摘されている。分かりやすい例で、献血やボランティアにお金を払うとかえって来る人が減ってしまった。お金を与えられるとかえってモチベーションが下がってしまう、ということが観察されている。金銭的インセンティブが教員のモチベーションを下げないことが重要。」と指摘しました。

「恐怖感を与える」「大学生が逃げる」
慎重な議論、教職員の納得必要

 巽樹里教育委員(大学講師)は、「教員が授業し、教員が生徒を見ていくので、教員のモチベーションを下げるような施策を導入することはよくないと思っている。ある程度教職員が納得、プレッシャーとか不安とか、言葉は悪いんですが、恐怖感を与えられるような、無理くりの制度は今すぐに突っ込まない方がいいのではないか。慎重な議論を重ねた上で、ある程度教職員が納得して導入していくべき」「大学生で大阪市で働きたいと希望している人が、言葉は悪いんですけれども逃げていくのではないかとの危惧がある。減額は賛成ではなく、どう支援していくか、一緒に教育委員会と教員で高め合っていく。頑張っている教員は評価する。」と述べました。

学力テストによる人事評価制度の策定を「確認」

 吉村市長は、「皆さんのご意見を踏まえて、今日で決定する話ではないので、じっくり考えたい」としながら、「確認しておきたいのは、客観的な指標として経年調査やチャレンジテストを使ったデータに基づいて、付加価値を上げている先生、そうじゃない先生、ここはきちっとデータ化して教員の人事評価に反映させる、これは是非やるべきだと思います。大森顧問提案の『教員別学力向上指標』をしっかり作って、評価する。まずこのことを確認したい。一方で、対象とならない先生をどう評価するのかついて、教育委員会でたたき台というか案を考えてもらいたい。まったく一緒はできないとわかっていますから、できるだけ公平、公正な評価制度をつくっていこうという趣旨ですので。大森顧問の提案をベースにしながら数値目標の立て方について進めていきたい」と、学力テスト結果=「数値」による人事評価制度の策定を「確認」しました。

※    ※    ※

 朝日新聞9月15日付は、「ただ会議では、『教員を志す学生が逃げる危惧もあり、減額する評価は避けてほしい』(巽樹里教育委員)▷「成績と金銭を結びつける手法は海外で例があるが、成績が上がった例も下がった例もある。制度設計が大事だ」(有識者として出席した中室牧子・慶応大准教授)などの指摘があった。」と報じました。

校長は全国学力テストで評価
教員はチャレンジテスト、経年調査で評価

 吉村市長は、「学テで見れるのは生徒一人ひとりというよりは、全国的に見てその学校が去年よりどれくらい上がったのか、ということの指標になる。全国的にみて大阪市が上がっているのか、下がっているのか、学校単位で見た時に、校長先生がマネジメントして上げていくことが重要なことだと思うので、校長先生について、人事評価をする。教員については学テではなく経年調査を見て付加価値を基準にしながら数値、評価軸を作っていく。」と述べました。

 市長は最後に、「スケジュール感が大事。2019年度に評価を試行的に実施する。今年度中に制度設計を行い、2019年度に試行実施し課題を検討、2020年度に実施し、2021年度から反映させるスケジュールで進めていきたい」としました。

教員別学力向上指標
全市教員の上位2.5%SS 10%に入る者はS以上

 市長が述べた「大森顧問の提案の『教員別学力向上指標』」は右掲のとおりです。(Webでは↓)

 教員別学力向上指標で大阪市の全教員を並べ、上位2.5%SSと評定するとしています。「『子どもの学力・体力に貢献する業務』については、『教員別学力向上指標(仮称)』の対象となる教員に対しては、特定の学年の対象教科の授業を担当する全市の教員(小学校については対象4教科の担当教員全員、中学校については教科ごとの教員全員)のうち、同指標の数値が上位2.5%に入る者はSSと評定し、それに次ぐ10%に入る者はS以上と評定する、という基準を適用することが考えられる。」としています。
(P4、左、④参照)

■資料

「新たな人事評価制度と学力向上データの利用について」(提案)

大阪市特別顧問 大森不二雄

<抜粋>

2.学力向上指標の開発について

(1) 指標開発の趣旨

  本市では、学力の高さではなく、学力の向上度を評価すべき

  公正・公平で客観的なデータ指標として学力向上度を測る指標を開発すること、並びに、その基礎となる教育ビッグデータ・システムの構築を加速することを提案する。

(2) 教員別学力向上指標(仮称)

  大阪市小学校学力経年調査…大阪府の中学生チャレンジテスト、大阪市中学校3年生統一テスト

  これらの学力調査・テストの結果において、児童生徒一人ひとりの正答率や得点などをどれだけ向上させたかは、これらの教科における児童生徒の学習成果及び教員による指導の成果を全市共通の尺度で客観的に評価できる重要な指標である。そこで、これらの学力調査・テスト結果のデータを活用し、該当教科の授業を担当した各教員(教諭又は主務教諭)が当該年度に担当した児童生徒たちの学力を前年度の同じ児童生徒たちの学力と比べてどれだけ向上させたかを測定する客観的指標(以下、「教員別学力向上指標(仮称)」という。)を開発し、施策に活用するものとする。

別紙1:一般教員(教務及び主務教諭)の人事評価制度(試案)

 【評価方法】

①「業務領域」は、全市共通目標としての2つの最重要目標に基づく「子どもの安心・ 安全及び成長に貢献する業務」及び「子どもの学力・体力に貢献する業務」、並びに、「広く学校運営に貢献する業務 (同僚への支援・協力を含む)」の3領域によって構成される。

②領域ごとに「挙げた業績」と「発揮した能力」各々について、次の5段階評価により 評定を行う。SS(極めて優秀)S(優秀)A(良 好)B(不十分)C(極めて不十分)

③「挙げた業績」及び「発揮した能力」いずれも、可能な限り客観的な評価(誰が評価者であっても同じ評価になる可能性が高いという意味での信頼性が高い評価)により評定するものとする。このため、評定の根拠を具体的に明記すること 。

④教育委員会は、可能な限り客観的な評価基準を作成する。

 客観的基準の例として、例えば、大阪市教育振興基本計画の定める全市共通目標としての二つの最重要目標に基づく業務領域のうちの一つである「子どもの学力・体力に貢献する業務」については、「教員別学力向上指標(仮称)」の対象となる教員に対しては、特定の学年の対象教科の授業を担当する全市の教員(小学校については対象4教科の担当教員全員、中学校については教科ごとの教員全員)のうち、同指標の数値が上位2.5%に入る者はSSと評定し、それに次ぐ10%に入る者はS以上と評定する、という基準を適用することが考えられる。また、教育委員会は、同指標対象外の教員については、教科等の特性を踏まえた客観的評価基準の作成等により、同指標対象外の教員については、教科等の特性を踏まえた客観的評価基準の作成等により、同指標対象教員との公平性及び対象外教員間の公平性を確保する。同指標の対象・対象外を問わず、授業アンケート結果の活用についても検討すべきである。

(注)小学校3~6年の国、算、社、理、中学校1~3年の国、社、数、理、英の授業担当教員が「指標対象教員」。チャレンジテストの対象となっていない中学1年の社会、理科は大阪市が学力調査を実施する方向で検討。

小3から中3までテスト漬け
子どもも教員も「数値管理」

 大阪市の子どもたちは今でもテスト漬けの状態です。小学校3年生から毎年「得点がどれだけ向上したか」が求められ、教員はその指導を強いられ、教育の目標が学力テストの点数=数値目標に一面化されます。子どもの内面世界の豊かな発達は切り捨てられます。

 教員は数値指標管理され、全市教員が相対評価され、モチベーションは下がり、専門性に依拠した教育的価値の探求など望むことはできません。

 教育委員も指摘した「評価の客観的な指標が本当に作れるのか」に対する説得的な説明はありません。「ある程度教職員が納得して導入していくべき」との指摘がありましたが、現場教職員の話を聞かず「意識を変えるだけで成績は上がる」という市長の提案に納得が広がるはずはありません。

 大阪市教は大教組、子どもと教育・文化を守る府民会議とともに9月13日、市長と教育長あてに、学力テスト結果を勤勉手当、学校予算に反映させることをやめるように求める400団体(第一次)の緊急要請書を提出しました。大阪市への批判はさらに広がっています。

 OECDは9月11日、教育への公的支出について日本が最下位であることを公表しました。大阪府・市は全国の自治体の努力で進んでいる少人数学級をかたくなに拒否しています。教育行政がやるべきことは教育条件の整備です。

 「教育ビッグデータ・システムの構築」の名によるいっそうのテスト漬け、競争主義の教育をやめること、教育を歪める「新たな人事評価制度」の撤回を求めます。