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学力テスト結果=「数値」がすべての教育政策はやめ、子どもの人間の尊厳を守る教育を
-吉村洋文大阪市長会見(2018年8月2日)を批判する-
2018年8月5日
大阪市学校園教職員組合
執行委員長 宮城登
数値目標で教育を歪めている大阪市
吉村洋文大阪市長会見について朝日新聞は8月3日付は、「大阪市の吉村洋文市長は2日、来年度以降の全国学力調査の結果を、校長や教員の人事評価とボーナスの額に反映させる意向を明らかにした」、4日付は「林芳正文部科学相は3日の会見で『調査で把握できるのは学力の一側面であることを踏まえ、適切に検討いただきたい』と述べ、市側に慎重な判断を求めた」「地元からは反発の声が上がる。大阪市の中学校長は『むちゃくちゃだ。大阪市で教員をやりたいと思う人がいなくなる』」と報じました。
大阪市では「全国学力・学習状況調査」(以下、全国学力テスト)などの数値目標の押しつけで教育を歪め、子どもと教職員を苦しめている事態がすでにすすんでいます。
大阪市は各学校のホームページに全国学力テストの各学校の「平均正答率(%)」を全国、大阪市と並べて掲載させ、各学校の「運営に関する計画」には、全市共通目標(小・中学校)として、「小学校学力経年調査【中学生チャレンジテスト】における正答率【得点】が市平均【府平均】の7割に満たない児童【生徒】の割合を同一母集団で比較し、いずれの学年も前年度より〇ポイント減少させる。」ことなどを掲げることを押しつけています。
教職員に対しては、今年度2017年度から始まった、新人事評価制度(教育職員)の「目標管理シート」には、「達成すべき水準は、数値で表現する定量目標と『どのような状態になったときに、目標が達成されたのか』で表現する定性目標を用いて具体的に設定」することを求め具体例として、「学力経年調査における国語の正答率を大阪市平均以上にすることをめざす」「大阪市英語力調査でリスニングの分野の1年生平均正答率70%を達成する。(昨年度の1年生の平均正答率は67%)」「『学校生活のルールとマナーを守るよう心がけている』という学校教育アンケートの項目の肯定的な回答割合を90%以上にする」をあげています。
そして、今回、全国学力テストの結果で勤勉手当や校長経営戦略予算を増減させることを総合教育会議に提案し、議論することを明らかにしました。
吉村洋文市長は、全国学力テストの結果に「非常に危機感を感じ」「抜本的な学校大改革ぐらいのことをしないと、べったというのは抜け出せないし、意識改革をしないといけない」(会見冒頭の発言)として、「『結果』に対して『責任』を負う制度へ」として3項目をあげました。
② 全国学力テストの目標の達成・未達成を業績評価などに反映
② 1つの教育委員会事務局を4つのエリアにブロック化
③ 8つ程度の特別な中学校(中高一貫教育校)を創設(HP掲載のフリップ)
吉村洋文市長は、「3本柱で大阪の学力を向上させたい」と述べました。
「① 全国学力テストの目標の達成・未達成を業績評価などに反映」について
「市長会見の項目(概要)」は、「◆公教育の成果を測る指標として、全国学力テストを活用しているのであるから、この結果の重大性を教育委員会だけでなく、各学校の校長や教職員にも認識してもらいたい。」「◆来年度に向けては、地道な取組みは継続するとして、制度面を大胆に変えて、現場の意識改革を図る必要があると考えている。◆平成27年度に高等学校入学者選抜の調査書に全国学力テストの結果を活用することで、大阪府の結果が上昇したように、明確な目標をもって、学校現場が一体となって取り組めば、最下位を脱するだけの力を大阪市の子どもたちは持っていると思っている。」となっています。
会見では、「今の制度というものを大胆に変えて、意識というのを変えないと、20位というのはずっと抜け出せない。」「根本の所で、このべったが、常態化していることに対して、危機感が一切伝わってこない。なんでべったが続いていて、抜本的なこうしたいも、教育委員会から、ないんです。じゃ僕がやるしかないな。このままいったら同じことを続ける。べったを続ける。」と「意識改革」を強調しています。「先生自身も後ろから追いかけられている感がいると思う。先生自身も、目標達成できなかったらマイナス評価されるんだ、その緊張感がいると思うんです。万年べったをどう改善するか。意識を変えるだけで成績は上がる。」と述べました。
意識を変えるだけでは「成績」は上がりません。次の指摘があります。「家庭の経済格差や生活環境などテストの得点を左右するデータは多く知られているのに、それらの分析からテスト結果の低迷の理由を探ろうとせず、現場の教師たちに責任を負わせるのも短絡的な考えだ。大阪市で教師になろうという若者も減り、教師の質を下げるだろう。」(朝日新聞3日付、尾木直樹さんの話)しかも、大阪市の教育の意識改革が足りないと教育委員会から報告を受けているのかとの記者の問いに、「受けてはいません。…ここは主観的なので、評価が分かれるところだと思います」と答えています。前市長や前教育委員長の「主観」や大阪市を実験場とするような「改革」で学校が混乱してきましたが、教育への介入を直ちにやめるべきです。
「全国学力テストにインセンティブを導入」について
「明確な目標設定と達成するための仕組み」として「全国学力テストにインセンティブを導入」をあげ、「全国学力テストに係る数値目標を各学校で設定し、その達成結果を業績評価、校長経営戦略予算などに反映させることを検討。」とし、「<業績達成の場合>例:人事評価への反映 ⇒ 勤勉手当 増額 校長経営戦略予算 増額など <業績未達成の場合>…減額」を検討するとしています。
大阪市の中学校校長が「むちゃくちゃだ」と言いましたが、吉村洋文市長も、「人事評価の在り方は、法律に違反しないことが前提。人事評価についてはその人自身の成績によってきちんと評価しないといけない、学校全体の問題なのに、学校全体が上がれへんから勤勉手当を下げるとなった時に、ほんとにその人の責任なんですか、そういう評価の仕方はいいんですかという議論はあると思います」と、その問題点の自覚はあります。
これまで大阪府市で行われてきた「教職員の評価・育成システム」の賃金リンクで教職員の資質の向上・意欲の向上がなされなかったことは明らかになっています。目の前の子どもたちの成長・発達、子どもの笑顔が私たちの願いです。人事評価の給与反映は、学校に必要な「チームワークをこわす」として、島根県、秋田県など実施しない動きが全国で広がっています。手当・予算の増減は「インセンティブ」にはなりません。予算の減額で子どもたちの教育条件を悪化させることは許されません。市長提案は撤回しかありません。
「② 1つの教育委員会事務局を4つのエリアにブロック化」について
「◆学力向上を市全体で進めていくためには、学校現場を側面的に支えていくサポート体制も重要である。現在は市役所本庁舎に教育委員会事務局を置き、一元的にサポートしているが、本市でも区と連携して、学校に近いところで学校をきめ細かくサポートしていく体制整備」のため4ブロック化するとしています。「莫大な数の小中学校がある。それを一つの教育委員会が見ることはやはり限界がある」「責任というのが不明確になりがち」としていますが、「抜本的な学校大改革」の内容説明がありません。
一方、「これは大都市制度議論にもからみますが、大都市制度議論がなるならないを待つことなく、教育委員会については制度を変えなければいけない」「4つの特別区の区割りをベースに議論」と、住民投票で否決された「大阪都」構想を先行させるような計画です。担当ブロックの「結果」に対して「責任」を負わせ、教育委員会事務局の職員が市長の意向を忠実に実行する仕組みでしかありません。
現在でも、教育委員会の区担当理事となった公募区長による学校教育介入が問題となっています。病休代替はもちろん、産休・育休の代替配置も遅れる、配置の遅れが常態化する異常事態となっている状態で、学校現場から「学校が壊れる」と悲鳴が上がっています。子どもの教育に直接かかわる教職員配置など、教育条件整備が教育委員会の役割です。にもかかわらず学校の教室を使用し、民間塾を行うなど、教育の民営化を推し進める「教育行政」の学校教育への介入を強める制度は必要ありません。
「③ 8つ程度の特別な中学校(中高一貫教育校)を創設」について
「既存の高等学校に中学校を併設するなどの手法で、新たな中高一貫校の整備を検討していく」としていますが、それは偽りです。吉村洋文市長は次のように明言しました。「特別進学中学校」「高い目標をもった子どもたちが集まる学校」「高いレベルの学力をつける中学校」「受験をして北野とか天王寺とか生野とかといったところに、あるいは私立の有名な高校を目指せるような学校、私立あるじゃないですか、公立でも作りたい」「高い所で勉強したいんだという子どもについて、結果を出している子どもについては行政として責任をもってさらに勉強できる学校を準備すべきではないか」
「特別進学中学校」を既存の中学校を指定するのは無理だとし、既存の高校に増改築などして作ることに、記者から「敷地として、建物として、箱だけを利用するイメージで、連続性は考えないイメージか」との問いに「僕はそういうイメージを持っています。」と答えました。
そして、記者から「現実問題として内部進学をする生徒がいないイメージか(注、例えば工芸高校内に作られた特別進学中学校から工芸高校に進学する生徒がいない)」と問われ、「そうだと思います。中高一貫だけれども、連続性は必要ない。」と言い切りました。
そして、「市長会見の項目(概要)は「◆公立学校においても中学入学段階での複線化をはかって、より個性を伸ばす教育を進めていくことで、大阪市の成長をけん引していくことにもなると考える。」と重大な問題を打ち出しました。
戦後、学ぶ権利の確立、教育の機会均等を実現するための「六・三・三制単線型」の学校体系を市民的な何の論議もなく、なし崩しに「中学校入学段階での複線化」が持ち込まれることがあってはなりません。
「数値目標」ではなく、子どもの人間の尊厳を守る教育を
大阪市の「平成30年度 学校運営の指針」は「『運営に関する計画』の策定・実施に際しては、次に掲げる重要事項に十分に留意することにより、学校運営におけるPDCAサイクルを確立し、教育活動の計画的な実践と評価結果を踏まえた改善を図る」としています。
新自由主義の教育支配の仕組みであるPDCAと目標管理システムは、数値目標を押しつけます。教育の仕事の中で数値化可能なものはごく一部であるにもかかわらず、数値化され評価の指標とされる部分へ、教育の仕事が一挙に一面化されます(学力テストの点数など)。そして、数値目標が達成されなければ、貧困など社会の問題、教育政策責任は隠され、全責任が教職員に押し付けられます。その結果、教師の専門性に依拠した教育的価値の探求、子どもの内面世界の豊かな発達は切り捨てられていきます。数値化できないものは数値化してはなりません。
太田堯氏は全国学力テストについて「子どもを皆、モノのように扱って、数値の中で束にしてしまう。それで何県が一番になったとかが大新聞の一面に出る」と批判しました。
福井県議会は2017年12月、「福井県の教育行政の根本的見直しを求める意見書」を採択しました。「『学力日本一』を維持することが 本県全域において教育現場に無言のプレッシャーを与え、教員、生徒双方のストレスの要因となっていると考える。これでは、多様化する子どもたちの特性に合わせた教育は困難と言わざるを得ない。」とし、「過度の学力偏重は避けること。」「知事の定める教育大綱は本県全体の教育行政の指針であるが、その基本理念実現のための具体的方策までを教育現場に一律に強制し、現場の負担感や硬直化を招くことがないよう改めること。」「教員の多忙化を解消し、教育現場に余裕をもたせるため、現場の多くの教員の声に真摯に耳を傾け、本来の教育課程に上乗せして実施する本県独自の学力テスト等の取り組みを学校裁量に任せることや、部活動指導の軽減化を進めるなどの見直しを図ること。」を求めました。
都道府県や政令市の成績が示され、点数競争が起き、学力テストが最優先課題となり、学校、教職員、子どもたちが振り回されていることへの反省が広がっています。
大阪市の教育に一層困難を持ち込む、「『結果』に対して『責任』を負う制度へ」の3項目の撤回を求めます。
以上